2.荒矯め(あらだめ)

 十分に乾燥させた矢竹は、まだ節でくねくねと曲がっていますので、
 箆にする最初の工程として、熱をかけながら扱き伸ばして通直にする
 「荒矯め」を行います。

 昔ながらの方法としては、灰で炭を囲ったトンネルを作って竹を中に通し、
 強い熱を均一にかけるようにしますが、現代的な簡便法としては、
 七輪に耐火レンガを並べてトンネルにすることなどの工夫もあるようです。

 皮の色が少々変るくらいまで熱をかけますが、
 この時はしゅうしゅうと音を立てて、切り口から蒸気が吹き出ます。
 また、竹の表面に油が吹き出して、つるつるになります。

 このようになった竹を、矯め木といわれる道具で何度も向きを変えながら
 扱き伸ばして竹の性質を均一なものにしますが、大変体力が必要です。

 熱のかかった竹は、驚くほど軟らかくなっています。
 ただ、調子に乗って曲げすぎると、節から簡単に折れてしまいます。
 特に、節の芽を外側にして曲げた時に、芽の窪みの真ん中付近から
 スパッと折れやすいものです。

 十分に荒矯をしないと、元の性質が残っていて、曲がりやすいものに
 なってしまいますし、やりすぎては弱くなってしまうようです。

 一度冷えてしまうと性質が決まってしまうので、
 荒矯のやり直しはできないと聞いています。

 私が試しにこの工程に挑戦した際には、竹がくにゃくにゃと
 曲がるのことが面白くて力を加減せずにどんどん曲げていましたら、
 羽中節の所をかなりの確率で折ってしまいました。
3.削り

 竹を削るためには、良く砥げた小刀が必要です。

 家庭の包丁などは多少粗めの砥石を使ったり、
 多少曲がった砥ぎ方をしても結構切れるものですが、
 職人の砥石は常に表面を平らにして刃先の角度が変らないようにしたり、
 「なぐら」と呼ばれる砥石を使って砥石表面を研ぎ、
 滑らかにしたり目詰まりを防いだりするようです。

 主となる砥石は超仕上げ用のものを使います。
 私は4000番を使っていますがこの程度で十分だと思います。
 この砥石の表面の修正には仕上用の粗さの平らな砥石と擦り合わせます。

 なお、超仕上げ用を中研ぎ用と摺り合わせると、
 超仕上げ用に目に見えるような傷がつくかもしれませんので注意が必要です。

 刃物の研ぎは職人芸の世界の話になってしまい、なかなか大変ですが、
 うまくできるようになると家庭などでも重宝されますので、
 ノウハウを上手な人から教わることをお薦めします。

 竹の削りには、普通は柄の付いていない幅の狭い小刀を使うようです。
 これは、傘屋小刀というもので、専門店に行かないと無いかもしれません。
 また、節を削る時などには、普通の幅の小刀も使います。

 矢竹は、地面に近い方が太いのが普通ですから、
 皮だけ削ると矢先が太い「杉成り」という形になります。

 ただ、先の方が太くなっているものも見たことがありますし、
 根と先で太さが均一で、無理なく一文字に仕上げられるものもあります。

 古い箆では、矢先が少しが細い麦粒様の形はわりと見られるのですが、
 箆の形は竹の形状や肉の厚さなどを考慮して決められるものであって、
 どんな竹でも好きな形に仕上げられるものではないと聞いています。

 皮を残したりする場合には、材料選びが大変だと言います。
 また、刈り取った後で乾燥させた時に節を包んでいる皮が残っていたり、
 材料に最初から染みがあったりすると、白箆や枇杷火箆、
 皮残しなどにすると目立ちますので避けることになります。

 先に節を削ってから全体を削りますが、
 いかに上手に節の付近を削るかがひとつのポイントだろうと思います。

 矢竹は節の下が細目で上が少し太くなりますので、
 仕上がりの太さが均一になるよう削る量を調整していきます。

 また、節の上の芽と反対側になる部分は膨らんでいることが多く、
 膨らみの少ない材料を選ぶことが削り込む量を少なくし、
 バランスの良い強い箆にするポイントのように思います。

 すなわち、良い矢を作るには、矢師の技量の優劣が大きいものの、
 最初から箆張りが強く均質な材料であれば無理なく良い箆になりますので、
 何よりも材料の吟味が重要な点となります。

 手入れの行き届いた竹林には良い竹が多いので、
 そういうものを入手できる矢師は有利になると言えます。

 ちなみに、矢の元は竹の根元側ですから矢先の方になり、末は筈側です。
 矢師が「矢の上の方」と言ったら、筈側ということですね。

4.洗い

 小刀の跡を無くする工程です。
 皮を残したりする場合には部分的には小刀の跡を
 そのままにして仕上げたりしますが、普通はきれいに丸く磨き上げます。

 溝を二本付けた二つの石に箆を二本挟んで、
 細かな砂と水を付けて摺る石洗い、同様に竹を使う竹洗いという方法で磨きます。

 この道具は、無理なく丸く擦り落とすことと、
 節の下などの細い部分が削れすぎるのを防ぐ意味があります。
 日曜矢師としては、古い箆を再生利用する時など表面の塗装を剥がす際に、
 この手法を応用しました。

 簡便な方法としては、石の代わりにかまぼこ板、
 砂の代わりに耐水紙やすりが使えます。
 このように硬いもので挟んで擦らないと、節の低いところまで削られてしまって、
 三日月形に残っていた皮まで無くなってしまいます。
矯め木
石津鯉厳(りげん)さんの
皮残しの削りです。
矢の製作に使う小刀の例です。