5.火入れ

 箆の硬さや色合いを決める工程です。

 竹は火であぶってもなかなか色がつかないのですが、突然一気に焦げてきますし、
 ちょっと気を抜くと簡単に表面に火が付いてしまいます。
 このため、素人では色が斑になってしまいがちです。

 表面だけでなく、中まで均一に焦す必要がありますし、
 しかも1手なり1組なりの色を揃える必要があるので、大変難しいものです。

 焼け過ぎる所には水を付け、焼き足りない所は釜の上の穴にかざすなどして全体を揃えます。
 ガスの炎で焦そうとすると、火が付いてしまう心配が大きくなります。

 また、ほんのちょっとだけ色が着いた状態である枇杷火色に焼くのは、大変難しいものです。

 火入れをすると、熱のかかった場所は焼き締まって少し細くなり、硬くなります。
 均一に焼けたようでも太い所と細い所ができますので、必要に応じて修正することになります。

 私は電熱により一定温度を維持できる装置を使って実験的に竹を焼いてみましたが、
 木材よりは低温で熱分解を始め、ある温度で枇杷火や栗色に仕上げることができました。
 ただし、炭火では一瞬にして内部まで一定の色となるようですが、
 電気炉を使ったものでは表面から徐々に色が変っていくようです。

 酸素の量などをコントロールすれば、きれいな色も容易に出せるのではないかと思っています。
7.仕上げ塗り

 箆の表面の保護と湿気を防ぐために、普通は何がしかの塗料を塗ります。
 古くは漆を塗ったことと思いますが、取り扱いが面倒なためにあまり使われなくなり、
 最近では有機溶剤を使った塗料が多いと思います。

 しかし、漆は光沢といい丈夫さといい、様々な面で極めて優れた塗料ですので、
 私は自分で漆を塗った矢を幾つか使っています。

 漆には種類が多いのですが、素人が失敗なく塗るには、生漆を拭き漆の手法で塗るのが良いと思います。
 竹に傷があったりして、吸い込みやすい部分があると、黒くなって目立ちますので、
 最初の塗りは少しテレピン油などで薄めて、塗膜が薄くなるように注意します。

 私の場合は、3回から4回塗り重ねた時が光り過ぎず艶が足りな過ぎず、丁度良くなりました。
 なお、拭き漆では芽の部分にウルシが溜まると汚いので、残さないようにふき取ることが必要です。
 
 漆は年月を経ると風合いが良くなると言われ、矢先が摺り減れば塗り重ねもできることから、
 お薦めの仕上げ方法です。

 また、カシュー塗料も上品な仕上がりです。
 透という色の種類を使って薄く塗ると、焦し箆は栗色に、白箆は枇杷火色になります。
 拭き漆と同じように、薄め液で薄めて塗り、すぐに拭き取るのが良いと思います。

 なお、一般に入手しやすい塗料は水性ニスや有機溶剤で溶かしたニスですが、
 この塗料は塗ってしばらくの間、矯め木の滑りが悪いようで、
 矯め直しの際に矢師をてこずらせますので避けた方が良いでしょう。

 クルミなどを擦り付けて油で仕上げるのも良いものです。その後でガラス瓶などを使ってこすると、
 見事な光沢になります。
火色の違う箆を並べました。

一番上が濃い目で
栗色などと言うと思います。

2番目が普通の色です。

3番目が枇杷(びわ)火色、

一番下が白箆(しらの)です。
6.矯め

 上手に作っても、火入れの後では焼き締まりの具合で、箆に太い所と細い所が残ります。
 従って、どこで曲がっているのかを見極めることは、素人には大変難しいものです。
 矯めは、矢師の3標語(1矯め、2削り、3火入れ)のトップに挙げられているくらいで、
 私にはうまくできません。

 矯めには矯め木と呼ばれる道具を使いますが、
 矢師は箆を噛ませる部分の角度の違う物を何種類も用意して使い分けます。

 焦げる手前くらいまで加熱してからテコの原理を使いながら引伸ばすようにしていきますが、
 竹は大変折れやすく、特に節には注意が必要です。
 芽の部分を伸ばす方向に曲げる時は、更に細心の注意が必要です。

 ちなみに、ジュラルミンシャフトは折れにくいため、竹箆に比べるとかなり楽な作業になりますが、
 相当な力をかける必要があるため、やはり素人には難しいことです。

 なお、ジュラルミンシャフトは、矢が横から当たったりして極端に曲がっていたり、
 引っ込んだ傷の角が鋭角になっていたり、火で炙られた場合は、
 かなりあっさり折れますので注意が必要です。

 カーボンシャフトの矯めは、多少加熱すればできるようですが、
 熱がかかりすぎればぐしゃぐしゃになりますから、素人の出番ではなさそうです。