14.羽根仕上げ

 羽根にはさみを入れる場合、筈側の方からにします。
 逆の方から切ろうとすると羽根が逃げてしまって、まっすぐには切れません。

 ただし、羽先を斜めにカットする時だけは逆から切ります。

 なお、刃渡りの小さいはさみでは大変切りにくいもので、矢師は特殊な大きいはさみを使います。
15.銘

 作者を証明するために、焼き印や小刀(最近では機械を使うことも)で箆に銘を入れます。
 銘は、元矧の矢先側に走り羽の向きに押す場合と、その裏側に押す場合、羽中に押す場合があるようですが、
 矢師によって、例えば上作と並作で変えるとか、矢の種類により変えるとか、
 いろいろと決めていることのようです。

 また、箆だけの製作の場合は、羽中に銘を入れて、
 矢としての仕上げをした人が元矧の下に銘を入れるというようなこともあるようです。
左に、いろいろな矧ぎ糸を並べました。

上が金糸にカシュー塗料の透きを塗ったもの、

2番目が赤系の糸にカシュー塗料の透き、

3番目が桜の皮にカシュー塗料の透き、

一番下が、白糸にビニル塗料で縁取りなしの
慶弔両用の礼射用です。
右は、白糸を混ぜた筈巻です。
私は縁取りが不得手なので、
ここでは縁取りに金糸を使っています。
石津鯉厳さん(銘は本名の嚴雄(いつお)となっています。)の、
小刀で書いた銘です。
この箆は、吹抜け箆といって、
バランスと重さの調整なしで揃えられたものですので、
焼き印ではなく、彫りで銘を入れたものと思います。

先代の巌氏が小刀だけで、
何十文字もある詩を実に達筆に彫ったものも見たことがあります。
11.羽根焼き

 箆に羽根を接着するには、羽軸の接着面を平らにする必要があり、焼き鏝で焼くことになります。
 この時、羽根の表側の軸が薄め、裏側が厚めだと、羽根が箆から放射方向近くに向かうようになります。

 残った羽軸は薄い方が良いのですが、そのためにはいろいろと気遣いも必要ですので、
 このあたりを観察すると、矢師の心配りや技術の優劣が感じられるかもしれません。


12.羽根付け

 羽根を箆に接着するのには、かつては膠を使ったと聞いています。
 現在はいろいろな接着剤が使われていると思いますが、ゴム系の接着剤が良いようです。

 修理などで、自分で羽根を貼る必要がある時は、
 接着剤のチューブの口をペンチで締めて細くしておくと、失敗が少なくなります。

 なお、普通は一番奇麗な羽根を走り羽に、次に奇麗なものを外掛羽に使います。


13.糸巻き

 自分の矢の糸を自分で好みの色に巻くと、なかなか愛着が沸くものです。
 特に筈巻は簡単に巻けますので、自分で巻くのはお薦めです。

 糸を巻く前に、筈側から直径1.5センチ、長さ3センチ程度の紙筒を差し込んで、羽根を避けます。
 次いで、本矧と末矧は羽根側から、筈巻は筈側から巻き始めます。

 箆をズボンのベルト通しに差し込むと、矢を回すときに安定します。
 巻き始めは糸の下をくぐして摩擦で止めるのですが、
 慣れないうちは木工用ボンドを糸の先にちょっとだけ付けおくと、作業が楽です。

 巻き終りは、2本の糸の下をくぐらすようにして戻して止めます。

 その上に、昔はゼラチンを塗ったようですが、今は木工用ボンドを塗るのが良いでしょう。
 2回重ね塗りをした後、トップコートとしてビニル塗料などを塗って、艶出しと水からの保護をします。
 下塗りが悪いとトップコートが糸に染みこんでしまい、とても汚くなってしまいます。

 なお、トップコートの簡便な方法として、透明なマニキュアを使う方法もあります。
 ただし、表面の滑りが良くなるので、次の縁取り(毛引き、口取り、口うるしなどとも言います。)の
 作業がしにくいようです。

 さて、その縁取りをすれば終わりですが、実はこれが素人には難しいことだと思います。
 矢師によって好みがあるようですが、犬鷲のナタ羽やヤマドリの尾羽から羽弁を1本抜き取って、
 これを軸になるものに糸で縛りつけ、カシュー塗料などを付けて、矢を回しながら塗るのですが、
 横にずれたりして、なかなか上手にはできないもので、私も苦手です。

 私は、金糸にカシュー塗料の透き色を塗ると良い風合いなるのに加えて、
 糸の端が少し光って見えるので、そのままにして省略することが多いです。

 最近は矧を糸ではなく紙で済ます場合もあります。
 元々は低級品用だったようですが、奇麗なので若い人には人気があるようです。
 また、矧を桜の樹皮でする場合がありますが、
 先に下地として麻を巻いてから桜を貼るなど、大変手間がかかるので高級品に使われます。

 そのほか、筈巻に矢絣状に他の色の糸を混ぜる技術もあり、他人の矢と見分けるのに好都合です。
 なお、弔事の礼射には縁取りをしない白い矧糸の矢を用いると聞いたことがあります。
 糸を巻くだけでも、いろいろと面白い話がいっぱいですね。