三.修理

1.箆の修理

 竹の箆は、的枠に中ったり、他の矢があったりして破損します。
 程度にもよりますが、竹の繊維に沿ってひびが入ったようなものであれば、
 割れを広げて瞬間接着剤を入れて締め付ければ使えるようになります。

 使い込んで矢先の竹が摺り減ってきた時は「根継ぎ」ということをします。
 同じ様な色の竹を選んで、本体と継ぐ側の角度が合うようにテーパーをつけて削り、
 接着剤をつけて強く押し付けるのですが、中心を合わせて太さも揃えなくてはならないので、
 大変難しい、熟練を要する技術です。

 箆の長さが足りない時や、端が折れたり筈打ちをしたりした時なども同様にして修理しますが、
 発射の際に一番力がかかる、箆の中央部付近では継ぐことはできないそうです。

 また、短いものに継ぎ足しても、射付節の先が長くなりすぎたり、
 羽中に節がこなくなっては格好が悪いですから、修理するか交換するかの判断は面倒かもしれません。

 なお、上手に継がれたものは、言われなければ継ぎ目がわからなくなることもあります。


2.羽根の修理

 矢羽根は、使っているうちにまず頬摺羽が減ってきます。
 この場合は羽根を一枚だけ交換できますが、糸をはずして巻き直す普通の方法のほか、
 矧糸の境で羽軸を切って羽根を剥がし、羽軸の太さを合わせた羽根を接着する簡便な方法もあります。

 頬摺羽を減りにくいようにするには、二枚頬摺りという方法があります。
 筈を時計方向に少し回すのですが、完全に走り羽と頬摺羽の二枚が頬につくまで回すと、
 引いている時の見た目にちょっと違和感がありますので、私の常用矢は少しだけ回すようにしています。

 筈は、焦げない程度にライターなどで熱すると接着がゆるむので、ナイフの背などを溝に入れて回します。
 ただ、この時は羽根を焦さない注意が必要で、羽根を紙の小さな筒でカバーしたりすると良いでしょう。

 また、後から射た矢が羽根にあたった時には羽根が窓のように抜けてしまうことがあります。
 羽根は筈方向に引っ張ってもなかなか傷みませんが、
 矢先に向かって引っ張ると、簡単に軸から羽弁が剥がれてしまいます。

 この場合は、同じ模様の羽根があれば羽軸から剥がして、同じ大きさにして嵌め込みます。
 上手にすると近くで見ても簡単にはわからないので、高級な羽根の修理によく使われる方法です。

 羽根を扱う力加減ですが、使われなくなった矢の羽根を矢先の方に向かって引っ張ってみると、
 どの程度もろいのか、どんな剥がれ方をするのかが良くわかりますので、一度試してみると良いと思います。

 なお、羽根を箆から剥がす時は、たっぷり蒸気を当てながらピンセットなどで羽軸の端を挟んで持ち上げます。
 箆に残った接着剤は、小刀の背などでこそげ落とします。
四.装飾

 矢は武道の道具ですし、わびさびが日本人の美意識のひとつですから、素朴なものが一番なのでしょうが、
 弓が実用の延長ということで藤によって装飾したりするのと同様に、矢もいろいろと装飾が行われてきました。

 装飾と言っても単なる装飾だけを目的としているとは言えないものもありますが、
 さわし箆や節影箆などを重宝したり、羽根の符を競ったり、羽中(はなか)の塗りなどが行われています。

 羽中、すなわち羽根の付けられているあたりの装飾・加工ですが、ここは竹の先の方になりますので、
 根の方よりも細くなっていることもあって、補強の意味合いで紙を巻くことがあります。

 また、羽中は羽根があるために矢となってからは矯め直しのための熱をかけられませんので、
 箆を製作する際に十分に矯めたうえで、更に湿気を呼ばないように塗りをほどこしたりします。

 ただ、羽中の塗りは欠点を隠すために行われることもあるので、ありがたがってばかりはいられないようです。
 
 また、羽中文字といって、龍とか必中とかを書くのを好む人もいます。
 金色の文字は、金属粉を混ぜた塗料を使ったり、
 漆やカシュー塗料で字を書いてから金箔を乗せるなどればできあがりです。
左の写真の羽根は、
端が5ミリほど修理されています。

鳥の羽は、右の写真のように
羽根の部分だけ羽根軸から
剥がすことができるので、
これを張り込みます。

窓埋めも同じようにします。

逆に、羽根は力の入れ方によっては、
簡単に剥がれてしまうという
ことでもあります。
羽中の塗りの一例です。
これは梵字が書かれています。

羽根を接着する際には、接着力を強めるため、
羽根を貼る部分の塗料を小刀で剥がしてしまうのが
一般的なようです。
左の羽根は、真ん中でつなげていますが、
良く見ないと気が付かないものです。

中白鷲の尾羽でよく使われる技術です。