五.特殊な箆の種類

1.枇杷火箆

 少しだけ焦がした、というか、熱をかけた状態の箆です。
 ですので、焦げた色と言うよりも、枇杷の実のような明るい色になり、
 礼射用に使われます。

 白箆と同様に汚れの少ない竹を材料に選ぶことなどから、
 普通の箆よりも高価になります。

 白箆や薄い焦がし色との境がどこになるのかは判りませんし、
 白箆に薄く茶系の塗料を塗ってもこの色になったり、
 色が引き立てられたりしますが、何れにしろ暖かい感じでとても綺麗です。


2.さわし箆

 泥に漬けて作られると聞いていますが、ただの泥ではなくて、
 矢師が工夫を凝らした、鉄分の多い人工の泥のようです。

 黒っぽい箆ですが、これは神代木(埋もれ木)ができる原理と同じで、
 竹の中にあるタンニン分が鉄イオンと結合して、
 黒いタンニン鉄になるためと考えられます。

 箆として仕上げた後、1,2年かけて染めていたようですし、
 手間と時間が大変かかるため、価格は普通の箆の2倍程度のようです。
 
 ただ、注文を受けてからの作業であると考えると、
 気ぜわしい今の時代はどのような作業をしているか不明です。
 表面だけ色が付いていて、時間とともに色が褪せた例も見たことがあります。

 泥漬け中に水溶成分が抜けるため、多少軽くなるかもしれませんし、
 多少、脆くなるとも言われていますが、真偽のほどは判りません。


3.節影箆

 全体的には枇杷火色にして、節の下を濃く塗るか焦した箆です。

 もともとは、芽の部分からの干割れを防ぐため
 実用のために漆を塗ったことから始まったように本には書かれていますが、
 現在はもっぱら装飾となっていてます。


4.角箆

 箆の中程の断面を丸ではなく、何角形かにしたものです。
 空気の整流作用があるので、羽根がなくとも比較的安定して飛ぶと聞いています。

 普通は射付節より根の側と、羽根を矧ぐ場所は丸くしています。

 丸箆と違い、削りの技術がはっきりとわかりますので、矢師の腕の見せ所ですが、
 角がきちんと出ていなかったり、面がねじれていたりしているものも
 見たことがあります。


5.砂摺り箆(砂目箆)

 昔は好んで使う人が多かったと聞いています。
 一度仕上げられた箆を再び石で挟んで砂を使って擦ったもので、
 ざらざらの表面になります。

 作られた当初は、触れば手の油の跡がそのまま残りますし、
 風合いも磨かれた箆とは全く異なりますので、好き嫌いがあることでしょう。

 この箆の特徴として、空気が箆に張り付かず矢飛びが良いと言われていますが、
 最近では作る人も注文する人もあまりいないようです。


6.皮付き箆

 一番力がかかる袖摺節付近の皮を削らずにそのまま残した箆で、
 箆張りが強いのが特徴です。

 材料となる竹の形によって、皮を多く残すか小さく残すか、
 はたまた残せないかが決まるようです。
 この箆もまた、矢師の削りの技術がはっきりと見える箆です。

 なお、残した皮を装飾的に削るものもあり、高価です。
角箆の例です。普通は8角ですが、
左から 6角、8角、12角です。

6角ですと、かなり角張り、
削る量も多くなるので弱くなります。
砂摺り箆です。
皮を残した所に模様を入れています。
枇杷火箆です。
上2本がやや濃いめの普通の箆、
下2本がさわし箆です。
節影箆のうち、焦がして色を
付けているものです。