六.羽根の種類
羽根にもいろいろありますが、よく使われているものや知られているもの、
過去に使われていたものについて少し触れます。
せっかく羽根の種類や特徴についていろいろ覚えても、
猛禽類については弓具店の在庫がなくなればほとんど手に入らなくなりますし、
価値のわかる人も間もなくいなくなってしまうのかなと思います。
しかし、華美を嫌う武道の道具の中で、
白と黒の羽根の模様に様々な名前を付けて賞用したことなど、
基本的なところは日本の文化のひとつとして知っておきたいところです。
まず、手羽根と尾羽根では、尾羽根の方が圧倒的に高価ですが、
そのぶん丈夫ですし、綺麗な場合が多いものです。
普通の尾羽根は櫂方の方が開きより高価ということになっており、
櫂方の中でも12枚(オオワシだけは14枚)ある尾羽根の両端である石打は、
びっくりするような値段になっています。
石打は、羽根の高さが低く普通は羽根にはさみを入れないで使うのが特徴です。
このため、さわった感じも柔らかく、羽根の高さも本矧から一気に一定となるため、
頬付けの感じが一般の矢とは違って感じられます。
昔は偉い人の専用だったとか、巻藁矢用だったとか聞いていますが、
空気抵抗が少ないためか、射流してみると飛びの良さは非常に良いと感じています。
また、石打のとなり、外側から2番目の羽根は脇とか大石打などと言い、
小さな鳥では丁度良い羽根の高さになる場合もありますが、
鷲類では一般的にははさみを入れないと空気抵抗が大きく矢飛びが悪いと思います。
なお、開きは厚いので強い弓に、とは言いますが、
28mを飛ばすだけならさほど気にすることもないのではないかと思っています。
1.イヌワシ
立派な鷲なのに犬鷲とは大変失礼に思いますが、英語ではGOLDEN EAGLEです。
矢羽根としては、幼鳥のうちの手羽根と尾羽根の白い部分が多いものを犬鷲と呼び、
成鳥となってから焦げ茶に切斑状の濃淡模様が入ったものを熊鷲と呼んでいます。
以前、一枚の羽根の開きと櫂方が犬鷲と熊鷲の模様に分かれているという、
成長過程のイヌワシを動物園で見たことがあります。
昔は練習用の羽根などと言っていましたが、今や高級品となりました。
尾羽根は大変丈夫ですし綺麗なので、とても使い易い羽根です。
犬鷲の尾羽根の開きは白い部分がきれいで、女性に好まれると聞いています。
開きよりも櫂方の方が値段は高くなりますが、
櫂方でも白黒の部分が羽軸に直角にすっきり分かれたのが良いとされていますし、
余計な斑点などがなくて白銀黒と3色に分かれているものを三毛と言って、
特に良い物とされるようです。
熊鷲の模様については、くっきりとしているのが良いものですが、
一組の矢で模様と色が揃うこともポイントです。
手羽根も、尾羽根と似た模様なのですが、かなり弱くなります。
ナタ羽の櫂方は手羽根としては丈夫ですし、模様も奇麗ですので女性向きですが、
一羽あたりの枚数が少ないこともあって、手羽根としてはとても高くなります。
手羽根は熊鷲では模様がきれいなもの、犬鷲では白い部分が多いものほど高価です。
犬鷲のホロ羽など、黒い部分が羽軸に沿ってあったりしますので、
はさみを入れる前に白い部分が多く見えても、意外と黒っぽく仕上がることもあります。
2.オジロワシ
幼鳥の時、ことり粕尾から粕尾へと変わり、成鳥は薄美尾(薄兵)と呼んでいます。
ことり粕尾はあまり見る機会がないですが、綺麗ではあるものの薄く弱いものです。
粕尾になると櫂方は黒っぽく、開きは明るい斑点の模様です。
また、薄美尾の一歩手前くらいに見える白いものでも、
白い部分がすっきりと抜けるまでは粕尾と呼ばれます。
粕尾の石打は色が濃くて模様がほとんど見えないものも多く、
その場合は値段は高いものの、見ていて映えるものではありません。
薄美尾の価値は黒い部分の面積で決まります。
黒が半分を越えるようなものは高薄美尾と呼ばれ、特に貴重とされます。
年をとってくると、黒い部分が減って白が多くなります。
手羽根については、粕尾のうちはナタ羽からホロ羽にかけて割と模様が出るため、
模様の良いものですとなかなか高価です。
大型の鷲ですが、イヌワシなどに比べると薄い羽根で、それほど丈夫ではありません。
薄美尾は女性に人気があるようで、男性はオオワシの方を好む人が多いようです。
オオワシよりも生息数がぐっと少なく、ワシントン条約の1類になっており、
輸出入とも禁止されている貴重な鳥ですが、弓道界ではオオワシの方が高価です。
3.オオワシ
普通はオオトリと呼ばれ、いろいろな種類の模様が様々な名称で呼ばれており、
見ていても楽しいのですが、あまりにも高価です。
尾羽根は、若いうちは黒と白が混じり、年をとると白い部分が多くなります。
羽軸まで完全に白くなったものは珍しいそうで、白羽の矢として使われますが、
真っ白では何の鳥だか、見慣れていないとわからないかもしれません。
大鷲の羽根は丈夫だそうですが、意外と柔らかです。
また、手羽根はナタ羽を中心として模様があることもありますが、
矢羽根として利用する羽軸付近にきれいな模様が出るものは少ないようです。
そのほか、ホロ羽などで尾羽根や粕尾に似た模様が出る場合や、
ナタ羽などでイヌワシとも似た模様が出る場合もあり、
これらは見る機会が少ないことから見分けにくいと思います。
ワシントン条約2類で、政府の承認がなければ輸出できない貴重な鳥です。
鳶の尾羽根で、
外側が長いのが特徴です。
犬鷲の尾だけでも変化があり、
左から石打、櫂方、開きで、
右は白い部分を使っています。
犬鷲で最も綺麗ともいわれる、
三毛です。
右から白、銀、黒に
なっています。
全て粕尾と呼ばれます。
左は石打ですが、
ほとんど模様が見えません。
中は、薄美尾の一歩手前です。
そっくりに見えますが、
左は薄美尾(オジロワシ)
右はオオトリです。
このオオトリは、
だいぶ日焼けしています。