少しだけ杢の話
矢の話から離れてしまいますが、私の好きな杢について少し解説します。
杢、、、見慣れない漢字ですが、「もく」と読みます。

木材を構成している組織が規則的に並んだり、繊維の走行が変化した時などに
美しい木目として見えている状態などを言います。
若い樹木には見られず、老齢木のごく一部にしか生じない、貴重な材料です。

よく見られるものの中の例としては、
トチノキの虎杢・ちぢみ杢、カエデ類の虎杢・鳥目(ちょうがん)杢、
ケヤキの玉杢、ミズナラの虎斑(とらふ)などがあります。
例えば高級なバイオリンの裏板は、はっきりした虎杢をよく用います。

弓の側木に使われるハゼノキで見られるのは、
縄目杢、シコ杢、梨地、鶉杢などですが、これらは弓の世界独特の呼び方です。

右の写真は縄目杢(木材の一般的呼称では虎目だと思います。)のアップです。
波打って見える線状の組織は水を通す細胞である道管です。
他の組織も一緒に波状につながっているので、光の反射が場所によって変化し、
離れて見ると縞々に見えます。
右の写真は、側木として荒取り(おおざっぱに切り出すこと。)されたハゼノキです。

切ってから長い時間が経っているので、表面の色も変わり曲がりもありますが、
少し削ればあの独特の黄色い色が出てきます。

よく見ると、鋸目とは別に、材を横切る形の細かな木目が見えますが、
少しシコ杢が入っている部分です。

弓の上から下まで全体にわたって同じような状態の杢が出ていることも
良い杢弓としては重要ですが、そのような弓はなかなか得難いものです。
右の写真は珍しいほどはっきりしたシコ杢で、細かに激しく繊維が波打っています。
表面を仕上げると、虎目石のように光の当たり方で縞が動いて見える、
非常にきれいなものになります。

なお、繊維が複雑に走っている木材は、繊維が通直なものに比べると、
木材としての強度はどうしても弱くなります。

つまり、繊維が複雑に走り杢がはっきりしている弓を
矢尺のある人が使う場合は、耐久性はあまり期待できなくなると思います。

ところで、シコ杢とは、音を聞くだけではイメージがまったくわかない名称です。
通常はカタカナで書かれており、漢字だとどの字をあてるのかはわかりません。
右の写真は、梨地の側木です。

これは、組織が規則的に並んだものではなくて、道管を斜めに切断する、、、
つまり、木の長手方向にとは少し斜めに製材して得られるもので、
杢というより木目と言った方が良いかもしれません。

穴のように見えるのが道管(木が成長していた時の水の通り道)です。


その下の写真2枚は、
梨地の表面の光のあて方による見え方の違いを写したものです。

光の向きによっては、全体が輝いて見えてきれいです。

弓全体にこの杢が出ていれば、かなり美しいと思いますが、
素直に伸びた木からでなければ手に入らないので、
なかなか見ることは無いものと思います。
このほか、珍重されるものに鶉(うずら)杢というものがあります。

仕上げの段階まで進まなければ、杢が入っているかどうかわからないものだそうで、
鶉杢の弓が欲しいと思っても簡単には手に入らないようです。

私も、これが鶉杢だと1回だけ教えてもらったのですが、
予想していたものと違ったこともあって、いまだにどのようなものだかよくわかりません。
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